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大関角田総合法律事務所

不動産の資産運用の方法として、サブリースという手段があります。昨今では消費者問題になることも多いこのサブリースについて、法的なリスクと投資的特徴等について、2回に渡って、ご説明したいと思います。

1 サブリースの仕組み

サブリースとは、不動産管理業者などのサブリース会社(不動産管理会社)が、顧客(賃貸不動産所有者)から共同住宅用の物件を一括で借り上げ、当該住宅を入居者に転貸するという仕組みをとるものです。

最近のサブリースでは、遊休の土地を持っている土地所有者に対して、大手デベロッパーが、建物の建築も併せて請け負い、サブリースとパッケージで受託するという特徴があります。
昨今の低金利が続く状況において、銀行等が貸出先を少しでも増やすため、農家の方など土地を所有している方に、サブリースに関する貸出しを増やしていることも、このタイプのサブリースが増えている要因となっています。

2 サブリースの法的特徴

上で述べたとおり、サブリースでは、不動産の所有者が、大手デベロッパーであるサブリース業者に建物を一旦貸し出し、サブリース業者が当該建物を入居者に貸し出すという仕組みをとります。このサブリースの法的な契約関係をみると、不動産の所有者が、サブリース業者との間で、賃貸借契約を締結し、サブリース業者が入居者と転貸借契約を締結する形式となっています。

一般に、賃貸借契約自体は、多くの方にとって、馴染み深い契約と思われますが、法的な賃貸借契約の位置づけをみると、賃貸借契約を規律する借地借家法や判例等は、賃借人を強く保護するようになっています(例えば、賃貸人の解除権が制限される、基本的に契約期間が更新される等といった特徴があります。)。

このように法や判例が、賃借人を強く保護する趣旨としては、日本の住宅事情に関する歴史的経緯のほか、経済的に賃借人の立場が弱いことが念頭にあります。
しかし、昨今のサブリースの形態では、不動産を所有する賃貸人は、不動産の知識も乏しい一般人である一方、不動産の賃借人となるサブリース業者は、不動産の知識も豊富で、資金的な側面からみても、不動産の所有者よりも経済的に強い立場にあります。
そのため、昨今のサブリースの形態では、本来、賃貸借契約が想定している賃貸人=強い、賃借人=弱い、という本来の構図が逆転する現象が起きているという特徴があります。

3 サブリースのメリット

次に土地の所有者が、サブリースによって不動産投資を行うメリットとしては、だいたい以下のものが挙げられています。

1つ目は、賃料収入が保証されるというメリットです。多くのサブリースでは、賃料保証がなされています。例えば、「30年一括保証」等を営業文句に、空室リスクを回避できる、賃料低下のリスクを回避できる等の説明が、サブリース業者から、土地の所有者になされることも多いかと思われます。

2つ目は、入居者の募集や賃貸住宅の管理業務をサブリース業者が行うことになるので、不動産所有者は、こういった業務から解放されるというメリットがあります。

最後に、サブリースを用いた不動産投資に限りませんが、相続税等の節税メリットがあります。サブリースにより、建物には、借家権が設定されますので、当該建物を相続すると、建物の本来の評価額に借家権割合が考慮された額が最終的な評価額となります(詳細はhttps://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm)。
また、賃貸物件が建っている土地は「貸家建付地」となり、当該土地は、更地に比べて評価額が下がることになります。このように遊休の土地に建物を建設し、その建物を貸し出すことによって、建物と土地の評価額を下げ、相続税の課税金額を少なくすることが可能となります。

4 サブリースの法的リスク

サブリースの法的リスクについては、原則として、賃借人であるサブリース業者が法的に強い立場にあるということを念頭においた上で、契約書内の各条項に注意払う必要があります。以下では、サブリースに関する契約を締結する上で、契約書中の確認すべき箇所をご紹介いたします。

①賃料保証
賃料保証について、30年保証、10年固定といった営業を受けることが多いかと思います。実際に、サブリースに関する契約書の条項には、当該内容に関する条項が入っているものと思われます。
ただ、よくよく契約書の条項を確認すると、必ずといっていいほど「例外」規定が存在します。例えば、「ただし、経済状況等により賃料の変動が著しい場合は賃料の改定について協議できるものとする。」などの文言です。また、判例も、賃料保証という文言があっても賃料減額請求を認めると判断したものがあります(最判平成15・10・21民集57巻9号1213頁)。
以上のような例外規定の存在等により、場合によっては、当初想定した賃料が減額されてしまう法的リスクが存在しています。

②途中解約のリスク
賃貸借契約は、判例上、賃貸人の解除権は制限されますが、賃借人の解除権は、賃貸人ほど制限されません。もっとも、多くの契約書では、契約期間を定めているでしょうから、実質的に賃貸人であるサブリース業者が自由に解除できる建付けにはなっていないものと思われます。
しかしながら、前述の賃料保証の例外を規定した「ただし、経済状況等により賃料の変動が著しい場合は賃料の改定について協議できるものとする。」との条項とともに、「前条の賃料に関する協議が整わない場合、乙(サブリース業者)は当該契約を解除することができる」などの条項が入っている場合があります。
また、契約書によっては、賃借人が賃貸人に支払う賃料を二年ごとに協議の上、改定するという条項になっており、当該協議が整わない場合は、上記と同様に賃貸人であるサブリース業者が、サブリースに関する契約を解除できる等の条項が入っている場合もありえます。
これらの契約条項により、不動産者所有者が賃料の減額に応じず、協議が整わない場合などは、サブリース業者が、契約期間中でも、当該サブリースに関する契約を解除してくるというリスクがあるといえます。 
さらに、保証期間や当初の契約期間の経過後は、契約内容等にもよりますが、賃借人は契約の更新を強制されませんので、安定した賃料収入が見込めない場合などは、サブリース業者が契約の更新等を拒否してくる可能性も考えられます。

③大規模修繕特約
賃貸経営というかたちで不動産投資をする場合、賃貸物件に対して定期的に修繕を施すことは、継続的な賃貸経営による投資をする上で、不可欠なものです。そして、当該事情を念頭においたうえ、サブリースに関する契約書には、「10年を経過した場合、必要な修繕を行うこととし、当該修繕を担当する修繕業者は乙(サブリース業者)が指定する業者とする。」等の条項が入っている場合があります。
サブリース業者としては、当該契約条項を前提として、修繕業者をサブリース業者のグループ会社等にすることがあります(または、大手デベロッパーであるサブリース業者自身が修繕を行うという契約条項となっている場合もありえます。)。
当該契約条項は、不動産の所有者には、修繕業者を選択できないというデメリットがある一方で、サブリース業者のグループ会社若しくはサブリース業者自身は、一定の周期で、修繕費用を請求できるというメリットがあります。
また、当該契約条項に加えて、「当該修繕義務を拒否した場合、乙(サブリース業者)は、契約を解除できる」という趣旨の条項が契約書中に含まれていることも多いと思われます。
以上のような契約条項により、サブリース業者が修繕費用を請求してきた場合、賃貸人である不動産所有者は、サブリースに関する契約が解除されるのを回避するため、当該修繕請求に応じざるを得なくなり、サブリース業者等が過大な修繕請求をしてきたりすると、想定していたよりも多額の大規模修繕費用が必要となるリスクがあります。

④免責規定
サブリースに関する契約書には、募集期間として、一定期間は、賃料を支払わないという条項が設けられていることがあります。この場合、賃貸人である不動産所有者は、建物建築のため銀行等に借入をした借入金を返済しなければならない一方で、賃料収入が得られないというリスクがあります。どの程度の期間が免責期間となっているのかを把握しておかなければ、キャッシュフローが不足するおそれもありますので、この点についても注意しておく必要があるといえます。

以上、サブリースに関する契約における法的リスクを説明してきましたが、サブリースに関する契約自体は、業者側が用意した契約書にサインするだけの場合が多く、修正等を加えることは出来ないことが多いと思われます。ただ、予め法的リスクを把握しておくことで、当該リスクを加味した適切な投資判断が可能となりますので、契約書は契約締結をする前に、しっかりとチェックすることが肝要といえるでしょう。

次回記事においては、これらサブリース契約の特徴を踏まえ、契約締結場面において特に考慮すべき事項や注意点につき、述べたいと思います。

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