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大関角田総合法律事務所

デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation、略して「DX」)なる言葉を昨今耳にすることが多くなりました。

聞き慣れない横文字が増えている今日この頃ですが、今回はこの「DX」についての概略について、ご紹介いたします。

デジタルトランスフォーメーション(「DX」)とは

経済産業省のガイドラインによれば、「DX」とは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること、とされています。

要は、最新かつ革新的デジタル技術(e.g. Iot、ブロックチェーン、クラウドシステムなど)を各企業が活用し、業務の効率化・高速化及び顧客サービスの充実化を図ろう、ということになりましょう。

デジタル技術の活用による新たな価値・サービスの提供や我々消費者の生活利便性向上、はたまた仕事効率化が果たされうるこの戦略的変革は、歓迎すべきものでしょう。

「2025年の壁」

もっとも、このDXの推進に関して、経済産業省は一定の懸念を示しています。それが、「2025年の壁」と呼ばれるものです。

「2025年の壁」とは、多くの企業はDXの重要性に理解を示し、自社の競争力向上のために最新技術システムの導入の検討は行うものの、企業全体を見るとその導入の着手が思うように進んでいない、という懸念を意味します。その理由のひとつとして、現在稼働している現行基幹業務システムが老朽化・肥大化・ブラックボックス化してしまっており(これを「レガシーシステム」と呼びます。)、それが足かせとなり、現行のレガシーシステムからの刷新、すなわちDXの本格的な導入が困難なものとなってしまっている、ということが上げられています。どういうことでしょうか。

無数のデータを収集・解析・処理する現行システムは、これまでの長年の開発期間及び同システムの稼働・メンテナンス・アップデートによって構築、維持されています。多くの企業は、そのような現行システムを繰り返しアップデート等することによって、業務を遂行してきました。しかし、現行システムのアップデート等により現時点における業務への支障は特段来さないものの、当然、そのシステム自体の老朽化は避けられないため、日々進化する最新技術の本格的な導入を現行システムに導入しようにも、システムのスペックが追いつかない、エラーが生じる、最新技術の導入がうまくいかない、という問題が徐々に生じ得ます。一方で、現行システムの刷新にも時間やコストが多分にかかってしまうため、企業にとってその刷新への腰も重くなってしまいます(私はこのことを知ったとき、「長年使っているPCやスマホで最低限のことはできるし、何より使い勝手も慣れている。最新の機種に変更するのはお金もかかるしメンドクサイ、現行ので十分満足している。でもバッテリーの持ちは悪くなっているし、稼働も遅くなってきているのは確か・・・、まあそのうち時期が来たら機種変するかー。」という、私自身よく思うことを連想しました。)。

また、システム特有の問題として、①ユーザー企業(これまで単に「企業」と述べてきた、いわゆるシステムを導入する側の企業のことを指します。)のシステム管理はシステム構築を専門とするベンダー企業に依存しがちであり、さらには一つのユーザー企業においても複数の異なるシステムベンダーがそれぞれ別個にシステム管理を行っているため、横断的なシステム管理をユーザー企業側にて行うことが困難となっている、②そもそもIT人材が圧倒的に不足している、といった諸原因もこの「2025年の壁」問題を加速させているようです。

そして、このような現行システムの据え置きによってシステムのレガシー化が生じ、進化の一途を辿る技術革新にシステムがいよいよ対応しきれなくなることに伴い、デジタル競争の敗者が増加すること、またレガシーシステムの老朽化によるサイバーセキュリティ上のトラブルや事故などのリスクが高まることによって、2025年には、わが国全体で最大年間12兆円もの経済損失が生じる可能性がある、と経済産業省のレポートは指摘しています。

対応策

この問題に対する対応策として、経済産業省が示すモデルでは、企業側がシステム全体を把握できるようにすること、部署ごとのシステム構築ではなく社内全体にて共有可能なシステムの構築、社内における優秀なIT人材の育成・確保、企業・ベンダー企業の良好な関係の維持などが、現時点においては考えられています。

ユーザー企業・ベンダー企業間の法的トラブルの発生

ここで、ユーザー企業・ベンダー企業間の関係性について言及すれば、上記のとおり、ユーザー企業は、主にシステム開発を専門とするベンダー企業にシステム開発の業務委託を行い、当該システムの構築・管理をベンダー企業に依存するケースが多く見受けられます。

もっとも、要件定義と呼ばれるシステム等の開発におけるその具体的内容の明記・確認につき両者間で齟齬が生じてしまい、ユーザー企業側の意図したシステムとは異なるシステムが完成されてしまったり、システムトラブルに伴う多額の損害発生による責任所在の争いなどを原因として、両者間に紛争が生じるケースがまま見られます。紛争解決の解釈指針としては、締結された契約内容、及び契約の法的性質もさることながら、特にシステム設計・構築という複雑難解な作業ゆえに、ユーザー企業・ベンダー企業当事者のシステム構築に対する意図や目的を合理的に解釈しながら、どちらの主張に整合性があるかを判断することが肝要となります。

まとめ

「DX」に関連する言葉として、デジタルディスラプション(Disruption:破壊)などという何やら物騒めいた言葉もあります。デジタルの波が既存の産業や価値・市場における地位に対して多大な影響を及ぼし、そして既存のシステムを破壊する、ことを意味する言葉です。なんとなく、ネガティブイメージとして利用されそうな言葉です。しかし、デジタルを破壊者としてではなく、デジタルの波をうまく活用し、それこそ破壊的なイノベーションを各企業が創造することがこの言葉の本意であり、また「DX」が目指すゴールでしょう。

同時に、変革の時には、既得権益を巡る争いなど、何らかの紛争が生じることが多々あります。その紛争解決にあたって、弁護士にも、単なる契約書条項の解釈だけではなく、当該変革に至るまでの過程やその意義に対して思いを馳せる姿勢が求められるでしょう。新しいモノもレトロなモノも好きな私としては、このような姿勢を忘れずに今後の超デジタル社会に対応していきたいものです。

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